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東京高等裁判所 昭和35年(人ナ)2号 決定 1960年8月25日

請求者兼被拘束者 青木操

拘束者 八王子医療刑務所長

主文

本件請求を棄却する。

手続費用は請求者の負担とする。

理由

本件請求の理由は、請求者提出にかかる別紙書面記載のとおりであつて、その要旨とするところは、東京高等検察庁検事泉政憲は請求者に対する確定刑の執行のため請求者に対し刑事訴訟法第四百八十四条による呼出の処分をしたが、請求者は右処分を不当として同法第五百二条による異議の申立をし、右異議棄却決定に対し更に即時抗告の申立をした、このように即時抗告の申立があつたときは右刑の執行は停止せらるべきものであるのにかかわらず、右泉検事は昭和三十五年六月二十四日不法にも請求者に対する収監指揮の処分をし、これがため請求者は東京拘置所に収容され引続き八王子医療刑務所に移監され現に右刑務所に在監中である、右の次第で右泉検事のした収監指揮の処分による請求者に対する拘束は、人身保護法第二条人身保護規則第四条所定の法律上正当な手続によらないで請求者の身体の自由を拘束する違法なものであるから、ここに同法及び規則による救済を請求する、なお、右は同規則第四条但し書による他に救済の目的を達するのに適当な方法がないものである、というにある。

審案するに、請求者が本件請求に先立ち当裁判所昭和三十五年(人ナ)第一号人身保護法による違法救済請求事件において本件請求と同趣旨の請求をしたことは請求者の自認するところであるが、当裁判所にある右事件記録によると、請求者は昭和三十五年六月二十八日本件と同じく請求者を被拘束者とし、当時請求者が本件八王子医療刑務所に移監される前収容されていた東京拘置所長を拘束者とし、本件と同趣旨の事実を理由として当裁判所に対し本件と同じく人身保護法第二条人身保護規則第四条による救済の請求をし、これに対し同年七月十二日請求却下の決定があつたが更に同年七月二十一日特別抗告の申立をしたので、当裁判所のした右却下決定は未だ確定せず従つて右事件はなお裁判所に繋属中のものであることが明かである。

裁判所に繋属する事件については二重の訴提起が禁止されていることは民事訴訟法第二百三十一条の明定するところであるが、右規定の趣旨は人身保護法第二十三条人身保護規則第四十六条により同法及び規則による救済請求についてもまた適用されるところである。これによつてみると、本件請求は前記の当裁判所昭和三十五年(人ナ)第一号人身保護法による違法救済請求事件が裁判所に繋属する限り右の二重請求禁止の趣旨の規定に違反する不適法なものであることが明かであるといわなければならない。

そして右のような欠陥はこれを補正することができないものに該るから、本件請求は人身保護法第二十三条人身保護規則第二十一条第一項第一号により棄却の決定を免れないものである。

よつて、本件手続費用の負担につき同法第二十三条同規則第四十六条民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 薄根正男 村木達夫 元岡道雄)

人身保護法第二条規定趣旨に該当する事由

本保護法第二条規定に該当する事由の要旨は請求者に対し東京高検第二検務課検事泉政憲殿指揮に依る収監以前に昭和三十四年(あ)第二二三四号棄却決定事件の刑の確定に依る受刑のために同高検同検事殿の発したる呼出状に対し右の処分を不当として昭和三十五年五月二十日千葉地裁松戸支部に対し刑事訴訟法第五〇二条規定趣旨に依る異議の申立を為したる処同異議を棄却前記棄却決定に対し更に刑事訴訟法第五〇四条規定趣旨に依る即時抗告を申立中の処右即時抗告は適法なる申立であるにより同抗告申立中は刑の執行を停止する効力を有するにもかかわらず不当にも本年六月二十四日前記泉政憲殿の指揮に依り東京拘置所に収監服役現在に到つて居る実情であります然し刑事訴訟法第一条に規定する同法根本目的の要旨は同法の定めるすべての手続はこの目的に依つて有機的に関連せしめて各条文をこの目的に適うように合理的解釈運用しなければならないのであつて同法に於ける基本的人権の保障は特に被告人の訴訟主体としての立場を重視する当事者主義の強化という形で実現されて居る此の点を特に重要視する意義から憲法第三十一条に法定の手続の保証を規定したのであつて即時抗告申立に対しては刑の執行の停止する効力を規定した趣旨こそ本即時抗告申立を重要視したものである先に請求者に於ては昭和三十五年(人ナ)第一号請求事件に於て本件請求趣旨と同様趣旨の救済を申立に及んだのであるが(人ナ)第一号請求(昭和三五年)を審理せる裁判所(第二特別部民事第二部)の棄却理由に依れば確定刑に対しては刑の執行を停止する効力を有しないから救済に該当する理由がないと判示せられて居るが右判断は失当である刑事訴訟法第五〇二条規定は刑の執行に対する異議の申立を認めた規定であり同法第五〇二条の異議の申立は裁判の執行に関する法律上の救済の一場合であり「執行に関し検察官のした処分とは」同法に基いて検察官のする裁判の執行に関する各種の処分を含み同法第四八四条乃至四八九条の刑の執行のための呼出状や収監の発布もまた右の処分のうちに含まれるものと解するのを相当とし「不当とするとき」とは検察官の処分が不適法である場合のほか検察官の処分が不適当である場合もこれに含まれるものと解するのを相当とするいいかへれば検察官がその裁量に属する処分について裁量を誤つた場合にも異議の申立できるのである故に刑事訴訟法第五〇二条規定に基とづいてなされた異議の申立は合理的解釈に基とづく申立であり右申立の棄却認容何れも同法五〇四条規定に基とづく即時抗告申立を認めて居る趣旨であるなれば同法五〇四条申立は適法なる申立であり権限ある執行機関と言へども右申立決定内容に拘束されること又明白である故に法的安全性を重要視するならば前記即時抗告の決定が棄却であつてこそはじめて身柄を収監すべきであつて即時抗告申立期間中の身柄の収監は明らかなる違法拘束であり本保護法第二条規定に依り救済を受けるべき事由に該当し昭和三十五年(人ナ)第一号棄却決定は失当である故に同棄却決定に対しては刑事訴訟法第四〇五条第一項に依り特別抗告を申立中であるが請求者の拘束が本保護法による迅速強力なる救済を必要とし尚特別抗告申立決定が尚相当期間内得られそうにも無いので新たな違法事実と疎明を以て本救済請求に及んだ次第であります。

人身保護規則第四条但書規定に依る救済に相当する事由請求者に於て人身保護法規則第四条但書規定に依る救済に該当する事由要旨は請求者が昭和三十四年(あ)第二二三四号事件の被告人として東京拘置所に拘束中眼科疾病両側黄班部変性症が悪化勾留が悪条件になるおそれがあるので疾病加療のため東京高裁第十刑事部より控訴審の判決と同時に保釈許可決定がなされ以来加療中の処前記昭和三十四年(あ)第二二三四号事件が棄却され本年五月一日刑が確定したので受刑のための呼出状を送達された際同疾病が尚加療を必要とするので刑事訴訟法第四八二条第一項規定に依り執行停止処分の指揮を執行宮たる東京高検検事泉政憲殿に求めたのでありますが同年六月二十四日東京拘置所に強制収監され現在八王子医療刑務所に服役中でありますが請求者の疾病は刑訴法第四八二条第一項に該当する重患であり刑務所の医療設備を理用しての治療では本疾病の治療回復は不可能であります其の事由は東京拘置所中野刑務所及八王子医療刑務所の各施設には眼科専門医の配置が無く請求者の眼疾は進行性があり失明するおそれが充分考慮され得る状態にある現況に於て眼科専門医の配置の無い一事のみを考慮して見ても非常に重大欠缺を有して居る疾病の急患に対応して専門医の来所診断を望む事は其の手続に於て其の時間に於て困難であり無医師無施設に等しいのであり前記同様趣旨を昭和三十四年九月十七日付東京拘置所医務部医師菅井利夫殿の病状意見書に於て申述べられて居るのであります然も八王子医療刑務所の様な治療を本務とする施設に於ても外医の来所診断に依るの外治療方法が無い実情を考慮すると国立東京大学附属病院の如き一大施設に於ての治療こそ本疾病の回復が望める唯一の手段であり本病情現収監施設を考慮するならば刑事訴訟法第四八二条に基とづく検察官の裁量的な執行停止の指揮の発動を求め得べき合理的な救済範囲に該当する事由ありと言ふべきである請求者に於て本年六月二十四日収監されて以来法の許す可能な範囲の救済手続を申立たのであるが今まだ確たる救済指揮無き現況は病勢の進行情況を考へると本保護法規則第四条但書の「他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときはその方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければこれをすることが出来ない」あらゆる救済方法を講じた後である請求者に於て本法但書に依る救済を求め得る事由在りと思考本請求に及んだ次第であります。

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